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タイトル:最後の将軍 徳川慶喜

著者:司馬遼太郎

出版社:文春文庫

概要

徳川慶喜の一生を歴史の変遷とともに記してある。

司馬遼太郎が書ききれなかったと言われるほど、歴史に深く関わりエピソード豊富な人物である。

歴史的なキーワードを用いると、

生後→安政の大獄→桜田門外の変→大政奉還→死後

が克明に描かれている。

中高生時代には、江戸幕府の維持が苦しくなって大政奉還を行った、くらいにしか習ってないと記憶している。

しかし、その実情は深く、様々な立場とそれらの力関係を考え、悩みながら導いた結論であった。

加えて、自分の為の決断ではなく、自分の周りや世の民衆の平和と安穏を願ったから故の結論であった。

徳川家の単なるボンボン将軍かと思いきや、優しく才能溢れる人であったと描かれている。

江戸から近代明治へ移り変わるキーパーソン。

意思決定の苦悩が読み取れ、その周りの時代情勢を理解できる1冊。

感想

考え抜いた末の大政奉還という意思決定。描写している立場から読むと感情的になるものであった。

トップとしての意思決定の苦悩が興味深いものであった。

この辺りの時代の、薩摩藩、長州藩、土佐藩の思惑や動きが良く分かる。坂本龍馬がなぜもこう話題になるのかも。

私が感じた印象としては、論理的合理的思考の強い人物だということである。良くも悪くもと言うべきであろう。

作中にも非常に稀な芸達者として描かれている。頭も良く何でも卒なくこなせる人物である。

しかし、人の感情理解に富んだ人物とは感じなかった。たまたま冷徹非情な悪人ではなかったようだが。

慶喜は部下からも非常に慕われた人物である。将軍も部下に押され、部下が動き周りを固めなったに近い。

そこまで慕われた人物であった。

 

加えて当時の侍文化を考えると、部下は将軍様のためになら心から命を投げられたのであろう。(心からと書いたのは、形式的になど侍なら当然であろう時代だからだ。)

そんな覚悟を持った人たちがたくさんいて、その人らには数多くの手下もいた。

そんな彼らは将軍を守るためなら、と血気盛んであった。他に仕えるなら命はいらない、といった感情だ。

そんな部下を多く持つにも関わらず、ほとんど攻めるという意思決定をしなかった。

 

慶喜がいたからの明治以降の現代がある、という事実は一回置くと、

幕府を守るためを一の目的に考えると、攻め戦う意思決定はできたはずだ。勝つ可能性も大いにあっただろう。

部下を失う寂しさ、辛さ、申し訳なさといったことが気がかりで意思決定が遅れた感は否めない。

部下の気持ちとしては、戦わず負けるなら、戦って負けたかったという思いは強かっただろう。

そんな思いまで汲み積極的に血気盛んに戦えたのなら、江戸は続いたのかもしれない。

頭で考え過ぎたとでも言うべきか。結果的には強気な反幕府に押され、大政奉還という結果になってしまった。

芸達者なゆえの繊細さや合理さがあったのかもしれないですね。

 

現代にも、早く攻めの意思決定をしなければ、後々後手に不利になってくる、といった教訓になるかもしれません。

現状維持に見え長期的には退化する目先の意思決定に捉われる日本人は再考しなければならないかもしれません。

後々でも前進になる意思決定をできる人が増えると良いですよね。